相方が仕事でマンチェスターに出張だったのでお相伴。仕事を休むことなど滅多にない人が「一日休む」というので、マンチェスターについて事前調査。といっても、八〇年代にマンチェスターから出てきたバンドのファンなので、ゆかりの地を探しただけ。現存しているライブハウスはすぐにわかるけど、つぶれてしまって跡地しかないところは、ナビゲーションを使って辿り着いてもわかりづらい。特に目立つ看板が立っているわけでもないし。でも、ナビとウィキペディアを見ながら「こ、これだよね!?」と発見した瞬間はとても盛り上がる! 一番楽しかったのが、The SmithsのTHE QUEEN IS DEADのアルバム・ジャケットの写真が撮影されたところに行ったこと。マンチェスターの市外にあって、トラックとか車がバンバン走っている道路脇を歩いているのは我々のみ。バスに乗ればいいのに、歩いたほうが中高校生みたいだから。市内中心地から三十分は歩いたと思う。そんなに遠くはないけど散歩を楽しめるような道ではないので… さすがに帰りは疲れてバスに乗ったけど。 行ってみたら、え?ここ?というぐらいに地味で何にもないところだった。そんなところで二人でアルバム・ジャケットと同じになるようにスマホでせっせと写真を撮り合い、あーでもないこーでもないと写真を加工して、SNSにアップして遊んだ。周りに誰も人はいなくて、一時間はそんなことして遊んでいたかも。 その後はまた市内に戻ってMuseum of Science of Industry (MOSI)へ。マンチェスターとリバプールを結んでいた鉄道駅(世界初の人を運ぶ鉄道の駅)が博物館になっていて、産業革命で劇的に変わったマンチェスターの歴史がここで学べる。綿工業で栄えたので、綿からコットン生地ができるまでの当時の工業機械がずらーっと並んでいるし、街の人口が劇的に増えたために、下水道や安全な水源の確保が課題だったので、下水道とトイレと公衆衛生の展示もあって、ここがとても面白い。人が集まって生活が激変するところというのは、これまでにはない課題に直面するからこそ革新が起きるのだなあと感心。技術革新もそうだけど、労働や貿易に関する法整備や公衆衛生とか。入場料は基本無料だけど、できれば3ポンド寄付して欲しいということだったので、二人で6ポンド。エンジニアという職業を誇る博物館なんだから寄付しなきゃね(教授は特に)。カール・マルクスの友人のエンゲルスもマンチェスターで紡績業を営んでいたので、展示に出てきた。この博物館はおすすめ! 糸を捻って強度をつけてボビンに糸を巻いていく 布にプリントするためのはんこ タグを織る機械。左上はデザインのパンチカードかな? 医療や宇宙開発などに使われるハイテクニットの展示もある。これは、生命兆候をモニターできるニットの開発 風立ちぬに出てくる飛行機みたい。ここにはロールスロイスの飛行機のエンジンも展示されている ブレッチリー・パークで暗号解読に活躍したアラン・チューリングは戦後マンチェスター大学に移ったのだけど、ゲイであった彼の銅像はマンチェスターのゲイ・ビレッジにある公園の中にひっそりと。そしてこの銅像は…彼の命を奪った青酸カリ入りの林檎を握っている!!自殺説もあれば暗殺説もあるが真実はわからない。私は暗殺説のほうがドラマチックなのでそっちを勝手に信じている。
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ロンドン日記 その17(ST IVES)
セント・アイブスからの帰路は寝台列車。これも旅の目玉。眠りが浅い人にはお勧めはできないけれど、私の場合、「寝台」という言葉の響きにノスタルジーを感じてしまう。 出発時間は夜の10時。小さなセント・アイブスの町はもう歩きつ尽くした感じだし、一人だし、どうやって時間を潰すかが課題となり、映画館でヒュー・グラントとマリサ・トメイの「The Rewrite」を観た。私はマリサ・トメイがとても好き。ワーキングクラスのワーキング・シングル・マザー役がよく似合う。ヒュー・グラントがミッドライフ・クライシスに陥るのだけど、それを救うのが彼女。「人生、もう一花咲かせたい」という男の欲望の炎を鎮火させるのである。ヒュー・グラントっていい具合に映画とともに年を重ねているね。アクション・スターじゃないから無理しなくていいからなんだろうけど。二人ともスマホや紙に目を通すときの「距離感」に現実味があって面白かった。 人影のないセント・アイブスの夜 さて待ちに待った寝台。セント・アースから乗るのだけど(セント・アースは途中駅)、E号車はどの辺に止まるのだろうか、と駅ホームをうろついていたら、列車がホームに入ってきたときに、電車の窓から顔を出して私の名を呼ぶ人がいる!乗務員だった。長閑だ。 セント・アースの駅ホーム 寝台料金を払えば個室に入れる。それを払わなければ普通の座席で座ったまま寝る。私は個室。一番高い部屋にはテレビがあるらしいが、WiFiがあるしデータプランにも入っているから、普通の個室で十分。乗務員がやってきて「朝食は何時に運びましょうか?パディントン駅到着は午前5時19分だけど」と聞いてくる。早い…「じゃあ…午前5時…」と言うと、「早起きねー。乗り継ぎあるの?ないならもっとゆっくりすれば?」「列車が到着しても乗ってていいの?」「寝ててもいいのよ。パディントン駅でシャワー浴びていけば?」「シャワーは浴びないけど、寝ててもいいの?」 遊びすぎて仕事も溜まっているし「じゃあ6時」と指定。どれぐらいまで寝ててもいいのか聞くのを忘れたけど、6時でも「早起きなのね」と言われた。寝台なだけに夜まで発車しないのかしら。 シーツ類はきれいだしコットン100%。ベッドが窓に対して直角にしつらえられているため、ガタガタゆれるたびにベッドから落っこちそうな錯覚に陥る。窓を開けても真っ暗闇。そして激しい雨。寝酒をひっかけるために食堂車にはお酒があるらしいが面倒だから行かない。疲れているから眠れそうだけど興奮と揺れで眠れない。本を読み始めたら、話にのめり込み、結局長い間ずっと起きていた。静かだなと思っていたら、パディントン駅にいつの間にか到着していて、起きたら5時半。周囲はまだまだ寝ている様子。窓を開けて駅構内を見回すと、マクドナルドなんかもまだ閉まっていて、ちょっと不思議。 朝食はクロワッサンにインスタントコーヒーにジャムとバターと質素だけど、ちゃんとトレーにのせて運ばれてきた。それを食べて、ぐずぐずしていたらもう7時!朝の通勤ラッシュの始まったところだった。徒歩で家に帰って仮眠。疲れたけど寝台はやっぱり楽しい。 最後にもう一枚、セント・アイブスの浜辺の写真
ロンドン日記 その16(ST IVES)
セント・アイブス訪問の目玉は「リーチ・ポタリー」という窯を見に行くこと。陶芸なんてしないのにどうして窯を見たいのだろう。アニメオタクがただeBayで欲しいものを競り落としているよりは、アニメの祭典に出掛けていって何か買うほうが楽しいのと基本は同じだと思う。 イギリスの陶器といっても、ウェッジウッドとかロイヤルドルトンとか雅やかで繊細な陶磁器ではなくて(そういうのも素敵だが)、私が好きなのは素朴な陶器。 周囲の工芸好きな人たちに「セント・アイブス(コーンウォール)に行くんだ」と告げると、「いいなぁ、いろんな工芸品があるよね、あの辺は」と羨ましがられた。工芸が盛んなところらしい。二十世紀以降のイギリスの現代工芸品ならばと、ファーンハム(Farnham)という町にある Craft Study Centre を勧められた。行ってないけど。 とりあえず、集めた情報をここに記録しておこう。 Farnham Craft Study Centre: http://www.csc.ucreative.ac.uk/ Ceramike(とても情報が充実しているサイト): http://www.ceramike.com/index.htm Leach Pottery: http://www.leachpottery.com/ Winchcombe Pottery: http://www.winchcombepottery.co.uk/(ここも勧められたが行かなかった) Victoria and Albert Museum: http://www.vam.ac.uk/ バーナード・リーチの作品はロンドンのV&Aの陶磁器フロアにも展示されている。イギリスの陶芸の歴史を語るには重要ってことか。 電車で行って思ったが、セント・アイブスの町にはギャラリーはあっても、そこに工房を構えて何かを作っている人は少ない。周辺にあるもっと地味な町に工房は点在。目的が工芸品を見ることなら車のほうがいいかもね。さて、それは今後の教訓として心の奥にしまっておき、「リーチ・ポタリー」について。 ここはバーナード・リーチが仲間と開いた窯。日本の民芸運動に深い関わりのある彼が亡くなるまで住んでいたのがセント・アイブス。去年訪ねた島根の窯元でも何度も彼の名を耳にし目にし、彼のデザインした陶器が綿々と作られているのだから、その影響力は偉大。今は財団によって窯は運営されていて、工房、ギャラリー、ショップが一緒になっている。彼の奥さんや息子や工房の仲間の作品も多く展示され、彼のスケッチや詩、彼がデザインした家具もある。かなりのマルチタレントぶりである。展示の一部の、バーナード・リーチ本人のナレーションによるビデオ(16mmフィルムからの復刻)を観ていて「英国人だなあ」と思った。当たり前だが。そしてちょっと川喜多半泥子に似ている。英国人だけど。展示スペースとしての工房には、当時本人が使っていた道具や椅子やテーブルが展示されている。こういうの見ると身近に感じる。 工房では今もいろんな陶芸作家が仕事をしているし、ショップには何らかの形でこの工房と関わりを持った陶芸作家たちの作品が買える。「定番」としてバーナード・リーチのデザインの食器類も買える。こういうものからの売り上げで、この窯を維持しているのかも。町の陶芸家に聞けば、昔は美しい庭も窯の横にあったらしいが、それは今はない。この日は工房で実際に仕事をしているところを見せてくれる日ではなかったけれど、それでも見るものは多い。とても楽しかった。 セント・アイブスにあるギャラリーをチラチラと見たけど、そんなにピンとくるものはなくて、残念に思っていたところ、Fish Pi Potteryを発見。店が可愛い!店舗兼工房で狭いけど、ディスプレイが可愛い。ガツガツしてないところが素敵!(陶芸家と長々とおしゃべりした) 戦利品 おまけ パスティというコーンウォール地方の食べ物。外側がサクサクのパイ生地で中はジャガイモ、チーズ、肉などいろいろ。デカイので一人では全部食べ切れなかった。セント・アイブスの町のそこらじゅうで売られているが、やっぱり焼きたてを出してくれるところを探していった。 セント・アイブスでもマトリョーシカを売っている店を見つけてしまった。もちろん見たけど全然かわいくないものばかりだったので、何も買わなかった。ある意味ほっとした。 寝台列車のことになかなか行き着かないなぁ。
ロンドン日記 その15(ST IVES)
セント・アイブス (St. Ives) という、グレート・ブリテン島のイングランドの部分の南西に突き出した半島の先端にある小さな町へ一人旅。ロンドンからはパディントン駅からセント・アースまで行き、一回乗り換え。電車で数時間かかる。セント・アースからセント・アイブスまでは約10分の道のりだけど、潟というのか湿地帯の横に線路が敷かれているので景色が面白い。 セント・アイブスはイギリスに長期滞在するなら是非訪ねてみたいと思っていた場所なので、ニット・ナイトのときに「行こうと思ってるんだなぁ」と言っていたら、誰かが「寝台特急があるよ」という。これで一気に気持ちが盛り上がる。何でも一応は口に出してみるもんだね。いろいろ考えて帰路を寝台にした。往路は景色を楽しむため昼間に出発。この日は大雨に見舞われ、悪天候に突っ込むかたちで旅に出た。しかし、セント・アイブスに着いた翌朝は快晴!滞在中も寝ている時間に雨が激しく降り、私が出掛ける頃には晴れ上がっていた。私はやはり雨女ではないのかも。 ロンドンもいいけど、来てみてよかった。日本でもTOKYOと地方の小さな町とでは生活が違うのと同じで、ここも夏だけ賑わう、のんびりした町だった。10月半ばとあってシーズン最後。老人が多かったけど、この町は坂道が多いので平らなところで彼らはのんびりと海を眺めている。坂の上、丘の上に行けばほとんど人はいない。 セント・アイブスは、カリフォルニアのモントレーに似ている。砂浜あり、岩場あり、崖もあり。春先には崖にピンクの花が咲き乱れるというから、ますますモントレーのよう。砂浜はかなり遠浅のようで、引潮のときには驚くほど波打ち際が遠ざかる。午前中は港だったところが午後には砂浜になっていて、その上に小船がゴロゴロ。 町は全体的に小高い丘の上にあり、町並みはとても美しい。細い路地を歩けばどこからともなく潮の香りが漂ってくる。見晴らしのいい場所に行けば、見えないけど海の向こうにはアイルランドがあるんだな、なんて思うと胸がきゅんとする。 しかし三日もブラついていれば丘に並ぶ素敵なコテージはみな夏の休暇用の「賃貸物件」だと気付いて旅情がやや冷める。既に夏は過ぎ去っているので、コテージに人が住んでいる様子はない。なんだぁ… 夢の世界のお姫様のドレスの下から、キツネの尻尾が出ているのを見てしまったかのような気持ちに少しだけなる。ここは騙されておくことにしよう。三日だけだし。 宿泊先のゲスト・ハウスは丘の上。急な坂を登らなければならないけど、丘の上に立てばとても素敵な海の景色が待っているし静か。(サンフランシスコに住んでいたことのある人には大したことない坂道)そしてこの丘をさらに登ったところに、バーナード・リーチが仲間と開いた「リーチ・ポタリー」という窯がある。セント・アイブスは、日本の民芸運動に深い関わりのあるバーナード・リーチが亡くなるまで住んでいた町。去年訪ねた島根の諸々の窯元も彼の指導を受けている。民芸運動について本を読んだり、人から話を聞くのが好きな私は、これがこの町訪問の目玉だった。でもこれについてはまた後で書こう。 一人でよかったと思ったこと 1 朝の海岸を散歩したこと。私は朝の海が一番好きだね。 2 好きなところで好きなように写真が撮れたこと。 3 セント・アイブス産のカニを一パイ、丸ごと一人で食べたこと。相方の目の前で、カニの手足をバキバキ折って、カニミソをなめたりすると嫌がられること間違いなし。私は「骨付きの肉は怖くて食べられない」と言っているのに、シーフードとなると別なので「ダブルスタンダードな女」と非難を浴びる。だからカニを一人で食べたことはとてもラッキーだった。セント・アイブス産のムール貝の酒蒸を前菜で食べていたため、カニを全部食べ切ることができなかったのが悔やまれる。カニよりムール貝が美味だと私は思った。セント・アイブス産のアジもおいしかった。ソースが選べる店だったけど、日本食に飢えていた私は「塩焼き!」で注文。塩焼きにしてもイギリスだと塩が足りないことが多いので、余分に塩をもらって食べた。ちゃんと皮をパリっと焼いてくれた。さすがは海の町! 4 地元民とざっくばらんにどうでもいいような軽い話で盛り上がれたこと。とあるカフェでは私しか客がいなかったため、お店の人と「賞金10万ポンド」のクイズ番組(Who’s On Heart 2014)を一緒に聞いた。 5 自分の部屋でワイドショー的なテレビ番組をいろいろ見たこと。 お目当ての「リーチ・ポタリー」と寝台列車についてはまた次回。
ロンドン日記 その14
The Knitting and Stitchingというイベントの初日に行ってきた。ファイバー系のものならなんでもドーンと揃ったイベント。ファイバー・アーティストや芸大やファッション関係の学校に行っているような学生の作品展示もあるし、ワークショップ(有料)もあるし、一日じゃ足りない!!(という忠告はニット仲間から受けていたが) いきなり、あみぐるみ池に迎えられた。 最初の三十分間はうれしくてうれしくて、早くいろんなものが見たいと足がもつれそうだった。感動のあまりに鳥肌がたった。だって、ニットだけでも北米にはないUK、アイスランド、北欧の有名ブランドから聞いたことのない地元モノまでズラっと揃ってる。本場の美しいシェットランドウール、ツイードなど盛りだくさん。「どこの羊毛?」と聞けば、「イギリスのどこそこの農場の、ナントカカントカ種の羊」などと、具体的すぎて話についていけない。そうかと思えば、激安で古いシーズンの半端糸が山のように積み上げてある。 もう目の瞳孔が開きっ放し、財布の紐も緩みっ放し。 それに加え、面白い布地、型紙、刺繍に使ういろんな色の糸、針、ハサミ、フェルト、ビーズ、染料、道具、キットが売っていて、あちこちで手芸を実演している。出来上がった作品も買える。原毛もあれば繭玉もある。ミシンも、糸つむぎ機も、拡大鏡も、収納ケースさえあった。 できることなら200年ぐらい長生きして、全部やってみたい!これ以上、手芸の趣味を増やしてはいかん、と自分を叱ろうとしたが、叱ってくれるはずのもう一人の自分は留守だった… いつのまにかカバンがいっぱい。なぜ私は家を出るときにこんな大きなカバンを持って出たのだろう。 スコットランドのサンカのとても伝統的なデザインの手袋キットを買った。サンカは昔「毛糸だま」の特集で見て「ふうん」と思っただけなのに、見たら編んでみたくなった(その場では)。 出来上がりはこんなかんじ そしてラトビアの伝統的な手袋のキット。このキットはパッケージも超かわいかった。毛糸の配色だけみると、レゲエ帽子が編めそうだが。ラトビアの中でも配色が派手なのは西のほうなのだとか。東のほうは白と黒に赤がちょっと、というようなものが多いらしい。このキットは飛ぶように売れていた。 そして、そして、クロスステッチによく似たビーズステッチ?この「クリスマス・プディング」がイギリスっぽいモチーフ。ひとつだけじゃ面白くないと三つ買う(ラドルフとロビン)。 可愛いハサミを見つけ、パターン(型紙)も見つけた。この店はおしゃれだった。 リバティ・コットンにも惹かれたけど、フランスのこの布も気に入った!さっき買ったパターンを見せて、布を買う。「個性的でいいんじゃない?」的なことをフランス語で言われる。赤頭巾ちゃんなどの話をシーンごとにプリントした素晴らしい布があり、それを適当にアレンジして、キルトの絵本だとか、赤ちゃんグッズが作れる。妹に赤ちゃんが生まれたのでもちろんこれも買う。 すぐにでも作り始めたいけど、今年は大移動の年なため、なかなか難しい。こういうとき移動中だとイライラするな。刺繍ならできるけど。 目にした展示品をいろいろ。 これは刺繍 刺繍と絵 これも刺繍 http://www.theknittingandstitchingshow.com/london/
ロンドン日記 その13
コンピューターの専門家三人とブレッチリー・パークに行ってきた。このメンバーで行けば、私だけが話についていけなくなることは火を見るより明らかなので、事前にウィキペディアを読み、和英の単語帳を作って準備していった。まるで仕事に行くような準備ぶり。面白かったけど、もう頭がいっぱいで最後は頭痛が… 博物館に入るなり、こんな戦時中のポスターが… 戦場で戦っているイギリス兵に靴下を編んであげよう、という呼びかけ。日本が千本針なら、イギリスはニット… そしてこの日、本当に兵士に靴下を編んだことがあるという車椅子のおばあさんに遭遇! 話は元に戻って… ブレッチリー・パークというのは、第二次世界大戦中にドイツをはじめ枢軸国の暗号解読が極秘に行われていたところ。アラン・チューリングがドイツの暗号機エニグマの設定を見つけるための機械を開発して、暗号解読に成功したのが有名。その話は多くの本が書かれ映画にもなっている。一番最近では、ベネディクト・カンバーバッチがアラン・チューリング役の『The Imitation Game』かな。一般公開はこれからだけど、今年のトロント映画祭で好評だったとのこと。もう少し前に『Enigma』という映画もあったね。見てないけど。 エニグマ機(タイプライターのようにしか見えないが) ビスマルク号撃沈に貢献したり、ノルマンディー上陸場所の決め手となる情報を提供したり、イギリスを勝利に導いた暗号解読プロジェクトだったけれど、国家機密なだけに、戦後も長い間秘密にされてきたので知らない人も多い。私は何年か前にアメリカのラジオのクイズ番組で初めて知った。「暗号解読のきっかけになったのはどれでしょう?」「ドイツ語の卑猥な言葉が暗号の中に頻繁に使われていたから」とかそんなクイズだった。博物館のマルチメディアガイドによれば、無線通信を傍受していたイギリス側の人たちは、ドイツ側の「あんまり卑猥な言葉ばっかりしゃべってちゃまずいよ!」という会話も傍受していたとのこと。 ここでは日本語の暗号解読も行われていて、コードブレーカーたちは漢字カードを作りながら日本語を勉強しながら解読に励んでいた。地味な作業だ。 そしてドイツの暗号を解読するためだけに作られた、コロッサスというコンピューターも見てきた。私にはよくわからないが、オタクたちは興奮していたぞ! コロッサス イギリスが誇るものだからさぞかし立派な施設だろうと期待して行ったら、とても地味。質素な展示なのに、コンピューター愛好家のおじいさんたちのアナログな案内が熱く、熱意が伝わってきた。 しかし、すごいことが伝わってきても、私には古いハードドライブが洗濯機にしか見えなかった。
ロンドン日記 その12
ロンドンは秋めいてきている。しかし9月は記録的に乾燥し温暖であったらしい。なんとラッキーな。雨女ではないのかも。 ロンドンで私にはニット仲間、教授にはジョギング仲間ができた。しかし、インドアとアウトドアという決定的な違いがあるけど、そこに集まってくる人たちの種類がものすごく違う。なんなのだろう、この差は。集合場所の地域差というのもあるかも。ジョギングのほうはチェルシーという富裕層の多い地区が集合場所で、ニットのほうはグラフィティがいっぱいの鉄道のそば。ロンドンの富裕層と付き合うチャンスは私には訪れない。 それに加え、私は仕事をあちこちの公立図書館でやることが多く、まあ公立図書館にインターネットを求めてくる人々といえば、普通の人が大半だけど、なんか狂っているよね… という人もいる。仕事しつつ人間観察に忙しい。 +++++ 英語もままならない上にどこか頭がおかしくなっているアジア系のおばさんが、コンピューターがうまく使えなくてイライラし、図書館員を呼びつけては一生懸命説明している。単語すら聞き分けるのが大変なおばさんの横に座って、白人の図書館員が「何がしたいのか説明して」とか「それは自分で決めることよ」とか「ごめんなさい、ちょっと何がしたいのかわからないわ」などと根気よく相手をしてあげている。なのに、アジア系のおばさんはイライラが頂点に達して、コインのようなものを机に叩きつける。図書館員って大変ね。 +++++ 暖かい日が続くので、図書館の窓が開け放たれている。爽やかな風が通るのかと思いきや、オシッコ臭い。窓からニオってくるのか、それとも窓際のあの男が放つ臭いなのか。そんなに汚そうには見えないんだけど、ここは図書館の二階だからな。 +++++ どことなく怪しい、どことなく狂気が感じられる白人のおばさんの携帯がピーピー鳴る。そして、これまたどことなく狂気の漂う有色人種のおっさんが、彼女の携帯が鳴るたびに文句を言いに行く。おばさんは消音の設定方法を知らないのだろう(と勝手に想像)。午後八時、またピーピー鳴った。おっさんが走っていく。 「これが最後だからな!これが最後の通告だからな!」 と激しく責め立てる。最後を見届けることなく私は帰途に着いた。 公共施設を共有するって、割と我慢強い人が世の中の半数を占めているから可能なのかも、と最近思う。 煌びやかなチェルシー橋
ロンドン日記 その11
近くにロンドンで一番古いと言われる「Electric Cinema」という映画館があるので行ってみた。見たい映画がここで上映されていたので。見たのはデイビッド・クローネンバーグの「Maps to the Stars」映画についてはまた後で。 この映画館は紆余曲折あり閉館や改装を経て今の状態らしい。サンフランシスコで言えばカストロ劇場みたいな感じ。中は超豪華。全席VIP仕立てで、座席は革ソファーにオットマン付き。オットマンの中にはカシミアの膝掛けが!バーがあるのでお酒を飲みながら映画鑑賞も可能。銀幕前の一番首が痛くなる席はベッド席で寝転べる。そこはもちろんカップルが占拠。古い映画館なのでスクリーンが小さいかもと思っていたら、そこは最新技術が。映画が始まるときに、カーテンが開き、スクリーンがウィーンと前に出てきて広がる。 ベッド席 オットマン付き 飛び出す銀幕 普通のVIPシアターよりも値段は高いかもしれないが(一人18ポンドで、ベッド席は少し安い)、「すっごーい!」とはしゃげる。どこのVIPシアターもほかの映画の予告編は見せるけど、コマーシャルは一切ない。ここも同じ。まあ、映画は家で見る人々にとっては、なぜ大枚はたいて劇場に行くのか理解しがたいことだけど、劇場好きにはたまらない場所ですよ。 実は、切り裂きジャックとは別の、ノッティングヒルで1940年から50年代に起きた連続殺人事件の犯人が、この映画館の映写技師だったと言われている。この事件は「10 Rillington Place」という映画になっている。この通りの名前は変えられて、建物もなくなっているのだけど。怖いな、ロンドン!幽霊とかあちこちに出てきそう!(亡霊好きなのに一度も亡霊を見たことがない友人の顔が過ぎった) 見た映画も幽霊が出てくる話だった。デイビッド・クローネンバーグ監督ということで、変な不思議な話なんだろうなと思いつつ、案の定評価も低くて、それでも私は結構好きな監督で、好きそうな話だったので見に行った。いやぁ、やっぱり話がアレでしたが、「意味わかった?」「どういうこと?」などなどと鑑賞後の話は尽きない。私も教授も楽しんだ。出演俳優みんな好きだけど、これ見て、ロバート・パティンソンが好きになったな。 http://www.imdb.com/title/tt2172584/ ところで、ロンドンは大都会なのに、夜が短い。午後9時頃の映画を見ると、その後開いている店がほとんどない!トロントのほうが夜は長い。
ロンドン日記 その10
「切り裂きジャック」の夜の散歩ツアーに参加。 こういうツアーはたくさんあるらしく集合場所のTower Hill駅には人だかりが… 私たちのツアーガイドは趣味で演劇でもやっているのか、マイクなしでも声のとおりがよく、とても演劇効果の高い話し方をするので、ワクワクする。126年前に起きた、未解決の連続殺人事件の現場を歩いて回るツアーだけど、第二次世界大戦中にイースト・ロンドンは激しい爆撃を受けたので残っている建物は少ない。微かに残っている景色から、一九世紀のロンドンはどんな様子だったか想像できるように、このお話し上手なおじさんが語る。淀川長治に案内されているのを想像してもらいたい。 しかしあまりのツアーの多さに地元住民が嫌がってツアー禁止の脅威に立たされているらしい。地元住民に報復されることもあるらしい。私たちがゾロゾロ歩いているときも「切り裂きジャック!やったのはお前たちだろう!」と遠巻きに叫んでいる男の人がいた。ただの酔っ払いか。確かに、自分の住んでいるところを「ここは娼婦の溜り場で…」とか「ここでズタズタに切り裂かれた死体が見つかって…」とか毎日聞かされたくはないかも。でも熟練ガイドさんはそういう地元民にも気を遣いながら案内している。 事件そのものについてはネットで調べれば詳しく知ることができるから、それよりもむしろ、「このビルは当時のものだ」とか「こういう細い小路は一九世紀にはあちこちにあった」とか、教えてもらわなければ通り過ぎてしまう風景に対して、案内を聞くことで興味が湧く。ロンドンに住んでいる人には優先順位の低いことなのかもしれないね。私だって15年もサンフランシスコに住んでいたのに、一度もアルカトラズの刑務所跡に行ったことないもん。 イースト・ロンドンはいつも「新参者」がやってくるところらしく、今はバングラデッシュの人なのだそうで。帰りはバングラデッシュ(インド?)のカレーを食べてきた。 ロンドンに三週間いるけど、まだまだ市内でも足を運んでいないところはたくさんあるな。
ロンドン日記 その9
ニット・ナイトのネタ色々 まだサンタクロースを信じている子供が200ポンドもするレゴセットをクリスマスに欲しい、とサンタに今からねだっているらしい。 家計を支える母は、それは小さな子供には高価すぎる、キツイ、ということで子供にものの価値を教えるときがきたかもしれないと思い、「おもちゃ屋に行ってほかのものも見てみよう」と提案。 「ママ、どうして店なの?クリスマス・プレゼントってエルフが作ってるんでしょう?」 可愛い。まだ純粋。まだ幼い。お母さんはeBayで頑張って同じものを半額で手に入れた。 +++++ ニット・ナイトにアメリカ人が一人いたので、「UKのスイーツってアメリカほど甘くないよね」と話しかけてみた。アメリカだったら「歯が痛くなるぐらいに甘そう」に見えるスイーツが、食べてみると全然甘くない。アメリカ人は「そうそう!」と乗ってきた。そこから二人でアメリカやカナダに比べるとロンドンの牛乳や野菜、果物がとても安いという話で盛りあがった。ほかの物価はものすごく高いのに不思議だ。 そこでアメリカのポップカルチャー好きのイギリス人が、「アメリカのジャンクなチョコレート食べたいのに、7ポンドもする!」と話に入ってきた。そう、なぜか北米では貧乏人の味方であるクラフト社のマック・アンド・チーズが北米では1ドルぐらいなのに、こっちでは4ドルぐらいする。あんなマズイものに4ドルも出すなんて!と思っていたのに、なぜか食べたくなり、ロンドンに来てから一度食べてしまったけど。 結局、健康に悪そうなものは高い、という仕組みなのかも。それは国民皆保険制度につながっているよね。「食べたいものを食べたいだけ食べる国(アメリカ)→保険も自分で用意」 +++++ ニット・ナイトにマトリョーシカがプリントされたバッグを持ったアジア系の女の人がいた。もしかして日系かな?と思っていたら、向こうから「日本人なの?」と聞いてきたので、「あなたは?」と聞くと、「シベリア」だって。「私、マトリョーシカ集めてるんだ」というと、「マトリョーシカは私の国のものだから、このカバン持っているの」と話す彼女の「マトリョーシカ」の発音がロシア語だった。モンゴル種つながりなのか、「今度一緒にどこかで会いましょう」と誘われた。 +++++ ピンクと白のストライプでセーターを編んでいる子がいて、身頃の半分しか編めていないのに、「毛糸がなくなった!ここからライト・グレーで編もうかな、どう思う?」と聞かれて、返答に困った。ニット初心者ではなさそうなのに、この子はバカなのだろうか。
