転倒事件その3

リハビリ病院に来るまで、救急病院を2件たらい回しにあった。私などよりずっと重篤の患者に比べれば大したことではないけど、普段病気とは無縁の私にはショックだったので記録したい。

救急病院2件目

最初に担ぎ込まれた病院では心休まらず、自分は一体この先どうなるのか最悪の事態なども考えつつ鎮痛剤でウトウトしていた。ふと目を開けると、すごくかっこいい救急隊員のお兄さんが私の顔を覗き込み、「これから別の病院に搬送するよ」と言う。そういえば、医者に「XX病院の骨の専門医に診てもらうからね」と言われていたのだった。ところが、その病院に空きベッドが出るまで8時間かかり、私は夢の中にいたのだった。

一口にかっこいいと言っても主観的なので例をあげると、若い頃の毛がふさふさしていた頃のウィリアム王子ぐらい。救急隊員は2人1組なので、もう一人は、看護師と書類のやり取りなど事務的なこともやるし、救急車の運転をしていた(と思う)。したがって、ウィリアム王子似の人は私と一緒に救急車後部に乗り込んだ。「大丈夫?」と声を掛けられ、私は「うん、大丈夫」と答えた。カナダで救急車に初めて乗った私は、ウィリアム王子から救急車内部の説明をしてもらった。手を取り合い、愛を語れなかったのが残念でならない。

が、2件目の救急病院でも、簡易救急ベッドに寝かされた。通路ではないが、ロビーの一部を区切ってベッドを置いている感じ。その前には救急隊員が大勢たむろっていた。聞けば、病人を搬送している間、病人の命を預かるのは救急隊なので、病院側が患者受入のサインをするまでは待機しなければならないそうだ。ま、当たり前だが、そっかー!である。最近、医療現場で働く人達のこういう隙間時間を批判する政治家がいるが、そういう政治家には絶対投票しない、と誓った(批判する対象が間違っているから)。

看護師や救急隊員に、「今日はメープルリーフスのプレイオフゲームがなくて、君は本当にラッキーだよ」と言われた。ホームゲームがあると、酔っぱらって怪我をする人が激増するので、救急病院は大変なのだそうだ。それでも、この日、この病院はほぼパンク状態のように見えた。私が運び込まれたときもかなり殺気立っていた。これが彼らの日常なのだろうか。

若い患者もいるが、やはり老人の骨折患者が多い。看護師から気をつけるべきことを言われても覚えられないし、言われたとおりできない。そのうち、彼らの分を私が覚えてしまったぐらいだ。私はつくづく自分が情報処理型の人間でよかったと思った。直情型の人は怒りをぶちまけ大変そうである。

この病院で私にとっての大問題はスマホの電源確保だった。連れにお願いしてある程度充電してもらったが、スマホがないと、ユーチューブ見たり音楽聞いたり、気晴らしができない。搬送されるときも、ベッド乗せ換えのときも、激痛が走り、あまりの激痛に吐き気さえする。トイレに行くのも怖く、できるだけ水をちびちび飲みながら耐えていた。しかし、向かいにいる重篤そうな患者が、薬と相性が合わず悶え苦しんでいるので、私などまだまだましだ。

一晩明け、やっと医者が来た。手術はしなくていいけど、リハビリして歩くしか治療方法がないから、と言われた。他に話すこともなく、カルロス・ゴーン再逮捕の話になり「君は日本人だよね? ゴーンはどうなるんだろうね?」と訊かれた。「日本では起訴されたら99%有罪になるから、彼も必死ですよ」と答えた。はっきり言って、ゴーンのことなんてどうでもいい。

まだまだ続く……

5 thoughts on “転倒事件その3”

  1. 鎮痛剤マジックもかかってるかも?
    しかし読んでてこっちまで激痛が走りました。さすがの筆力。続きを楽しみにしてます。

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