陶器を巡ってポルトを散歩

ポルトはポルトガル第二の都市でポルト(ポート)ワインで有名なところ。ドウロ河が町の真ん中を流れ、その南にポートワインの倉庫兼レストランなどが立ち並ぶ。ドウロ河を5時間ぐらい遡れば、「ポルトワイン」を名乗ることができる葡萄を栽培するワイナリが広がる。この川を遡るクルーズに参加したのだけど、それはまた後で。

ポルトガルの陶器といえば、雄鶏や花模様が素朴なタッチで描かれたカラフルな陶器を思い浮かべますが、あちこち店を覗いているうちに真っ黒な陶器を発見。ポルトガル南部にあるMolelosという町の陶器。釉薬はかかっていなくて還元による自然な黒。まず最初に写真右側の伝統的なものを見つけ(オリーブ油さし)、その後現代的なほう(写真左)を見つけた。この現代的なほうの陶器に遭遇するまでの長い道のりを書き残しておこう。

教授は仕事なので、私は独りで大西洋を眺めながらの浜辺の散歩。ポルト近郊の浜辺はプライベートビーチはなくて「みんなのビーチ」というかんじ。老若男女、観光客が好き勝手に泳いだり、のんびりしている。砂浜もあれば岩場もあるし、レストランもたくさんあってお金があってもなくても楽しめそう。


休憩のために市場でワインとパイを注文。テーブルランナーやランチョンマットがクラフティであることにふと気づき、店の人に「ハンドメイドでポルトガルらしいものが見られるところない?」と尋ねたら市街地のミゲル・ボンバルダ通りに行けば?とのこと。この通りは観光マップにも印されているから簡単に見つけられる。


するとこの人の絵が目に留まり店に入る。EVELINA OLIVEIRA というポルト出身のアーティストで、ポルトガルの古い民話を集めた絵本「o doce Canto da Sereia」などで有名らしい。でもこの店はピンとこなくてスルー。

しばらく歩くと別のギャラリーのショウーウィンドウの絵が目に留まる。Cristina Vela というスペインの画家の絵だった。なんとなくこっち店の人とはウマが合うような気がして、Cristina Vela について聞いたら、ウィンドウにあるのは賞をとったシリーズなのだが、実はアレとは全然作風の違う線画も描くから面白いよ、と見せてくれた。そっちもよかった。さっきの店でみた EVELINA OLIVEIRA の絵本の原画も置いてあった。星と月の光を紡いで編物している女の子の絵で小さいし「欲しい!」と思ったが意外と高い。プリントなら手が届く…と一瞬悶々としたが、気持ちは盛り上がらなかった。諦めて「実はポルトガルの陶芸品が見たいんだよね。どこか知ってる?」と聞いてみる。

「いいトコ知ってるけど、店の名前と住所が思い出せない。でもギャラリー店主のお父さんの店なら知っているから、まずはそこに行けば?」と店の名前を書いてもらう。


別の通りに出てしばらく行くと「お父さんの店」発見(雑誌や新聞が置いてある店)。左腕骨折中の「お父さんっぽい人」に「カクカクシカジカで、お父さんですよね?」と聞くと無言で「オレについて来い」的なジェスチャー。案内のもとすぐ隣の店に入る。

デザイナーでもある息子の店はシャレた店構えで、置いてあるものもとても面白い。「Molelos の陶芸よね?」などと知ったかぶりして話をすすめたら、ノリノリな会話になり、いろんなことを教えてもらったし、本を出して説明もしてくれた。伝統的な陶器作りから新しいものへの挑戦という、「この人のおばあさんがどうのこうの、その息子が誰それで、その孫がこれを作ったの」という「ザ・伝統」を聞かせてもらった(が大半は忘れた)。私は陶芸に関する翻訳を以前していて少々専門的なことも理解できるため、「陶芸家なの?」と食いつかれる。「ポターじゃなくてニッターなの」という話から編物の話になった。この後「私がこのギャラリーに至るまでのジャーニー」をはじめ、無駄話を繰り広げ、結局最初に目についた黒い器を買った。

日本人みたいにパーフェクトな包装がしたい!などと息子が言う。飛行機で帰るからしっかり包装したいけど、プチプチのバブルラップが嫌いだ、でも仕方がない、と悶々としながら長い時間をかけてラッピングしている。「十分ステキなラッピングだよ」と褒めてあげたら、「本当!?」ってウラから自作の栞を持ってきて全種類くれた。実はもう一点欲しいものがあったけど重いので泣く泣く諦めた。


休暇から帰ってきてそれぞれの陶器を眺めていたら、この息子から買ったほうの器の後に「元値」の値札が付いていた。6割のマークアップであった。

長い話だけど、偶然が偶然を呼び、やっと辿り着いたジャーニーなのである。

器も大変に気に入っている。

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