David Sedaris

David Sedaris が新刊を出し、ブックツアーの一環でトロントにもきた。 彼はアメリカの公営ラジオから出てきた人で、今でもラジオにはよく出演する。ラジオ向きの声をしている。その頃から彼の話が好きだった。やっと本人に間近で会える! とオシャレして行ったら、場所を間違えていた。てっきりダウンタウンのヨークビルの本屋でサイン会をやると思っていたら、郊外の高級モールの中、ヨークデールだった。間に合ったけど。 David Sedarisは今イギリスに住んでいる。強迫性障害の傾向があるらしく、いつも何か気になることがあると、それをずっとやり続ける人で、今は「道端のゴミ拾い」をやっている。晩御飯を食べた後、ゴミ袋とゴミバサミをもって、外でゴミを拾っている。 サイン会では、ニューヨーカーに掲載された東京が舞台の話を朗読してくれた。東京で姉妹と一緒に、恵比寿のKAPITALと、銀座のコムデギャルソンで、斬新すぎる洋服を買い物しまくる話。あんまりにも面白いので何回も読んだことがある! 日本人である私が聴衆にいるから、おまけにその日私がコムデギャルソンの服を着ていたから、その話を選んでくれたと勘違いするほどうれしかった。 で、サインが欲しくて本も買ったのだけど、David Sedaris はお客さん一人ひとりとゆっくり談笑しながらサイン会をするタイプの人で、本屋の閉店時間が近づいても私の番は回ってこなかった。普段から待つのが苦手な私は、我慢できるだけ我慢し、サインしてもらうときにはギャルソンの服とバオバオのカバンの話をしたいと思って、何を話すかも考えていたけど、我慢しきれなかった。途中で帰ってきてしまった。 でもいい。本人に会えただけで十分。朗読会で東京の話を読んでくれただけでもうれしい。 ニューヨーカーに掲載されたストーリーはこれ https://www.newyorker.com/magazine/2016/03/28/david-sedaris-shops-for-clothes-in-tokyo

焚火の終わり

友達が貸してくれた。でもなぜ貸してもらったのか覚えていない…… 確かに宮本輝の作品について話していた。貸してくれたのには何か理由があったのに。 エロの描写は多かったが、今の私は田舎の家の改築のシーンに興味を持ってしまった。「枯れてきた」証拠なのだろうか… あと、頻繁に電話で連絡を取るシーンがあるのに、携帯以前の時代の話なので、留守で話が進まないことが多い。すぅっと行方をくらましたり、人と距離を置くのが比較的簡単だった時代の話。よく、時代小説で同心の手下みたいな人が江戸の町中を歩き回っているのに驚いたりするけど、そうやって昭和(あるいは平成の始めの頃)の小説は時代小説になるのかも。 上巻に「とある太めの女流作家で、どんなに高い着物を着ても、着物がよく見えない人が東京から祇園にやってくる」と京都の花街で噂されているシーンがあった。これって林真理子のことかな、と思わせる書き方だった。宮本輝、性格悪いぞ!と思ってしまった。まあ、創作なので好きなように書けばいいと思うけど。 京都、関西、というか西日本の香りがムンムン漂う小説だった。 すごくどうでもいいことだが、学生時代にアルバイトをしていたホテルのバーに宮本輝はよく来ていた。一度見かけたことがある。思えばあの頃は彼の絶頂期だった。

噂の女

奥田英朗の作品はかねがね読みたいと思っていたら、偶然、人が貸してくれました。うれしい! 作者が岐阜市の人なので、会話があの辺の方言で書かれていることや、地方の人間関係のドロドロ感に現実味がある。現実味なんてものでは済まされない箇所もかなりあった(ここには書けないぐらいに)。 都会の大学に出て、Uターン就職したときに味わう「都会でつけた知恵」と「地元の昔からの物事の進め方」の対比もよかったな。スケールが違うけど、この辺のノリは『おとなしすぎるアメリカ人』に似ていた。机上で学んだ理想を掲げた人が、土着の人間関係を無視して何かやらかしているうちに、背中からグサリ、みたいなところが…… 美人局ついていろいろと学んだ。男が女をそうさせるというよりは、女のほうが自ら進んでその道を極めて黒幕にのしあがるのは説得力がある。#MeTooがレストランを匿名でこき下ろすことができるYelpだとしたら、こっちの美人局は保健所のトップを動かしてレストランを廃業に持っていくみたいなかんじ。 「わかめ酒」なるものを知ったのも、この本…… 本と関係ないけど、ブルートゥースのスピーカーが壊れた。突然異常な饒舌になり、接続していたデバイスを勝手に接続解除しては、「接続解除しました」「デバイスにつなげろ」と電源を切るまで同じことを何度も指示してきた。この状況を製造者にメールしたら、返品のやり取りがすべてメールで、返品の発送の送り状もメールで送られてきて、結局UPSに行く以外、「店」に足を運ばずに済んだし、新しいスピーカーも送ってくれる。死人のように口を閉ざしたスピーカーを箱に入れるのは、棺桶に入れているみたいで、ちょっと怖かった。便利な世の中なのかどうか…… 悩ましい。

おとなしいアメリカ人/The Quiet American

この間ブッククラブで読んだ本。 男女の三角関係のようでありながら、青くて理想に燃えるアメリカと老獪なヨーロッパと、その間で翻弄されるベトナムにかけてある。でも実は、ベトナム人女性はそんなに翻弄などされていない。愛など信じていないし、自分を正式に妻にしてくれて、経済力もあって、将来性もあるほうを狙っている。そして、アメリカ人とイギリス人の男たちも、なんだかんだといって、自分たちが生きている時代に思い切り翻弄されているのは同じなのである。 なんたって1950年代の話なんだけれど、男女の駆け引きが女のほうもうまい。大人の男と女の匂いがムンムン。 当然、ブッククラブでは、この女性キャラクターが話題になった。ストーリーの中ではうっすらとした存在感しかなく、なにゆえ2人の男が奪い合っているのかは判然としない。「色がない(個性がない)」「振り回されすぎ」という意見から始まり、結局は「自分が何が欲しいかを前面に押し出して言わないけど、欲しいものは手に入れている。存在感がないようで、実はある」というところで落ち着いた。女ばかりのブッククラブなので女性キャラクターにはみなうるさい。 ストーリーに漲る「矛盾」もひとしきり話題になった。タイトルそのものが「矛盾」している。アメリカ人はステレオタイプ的に「おとなしく」ない。この本の中に出てくるベトナムのキリスト教と仏教と土着の精神が融合したような教会(お寺?)のシーンも「一体何の宗教なんや!」と西洋人には不思議である。結局は「矛盾に満ちた世の中に生きる矛盾だらけの人たち」の精神バランスのとり方が絶妙だから、古典作品というわけなのかも。 このブッククラブには20人ぐらい人が来て、いつも古典を読んでいるようである。そのほうが図書館で本を借りられ、安く上げたい人には都合がいい。 比較的短いからさっと読める。アメリカがドツボにハマる前のベトナム戦争初期の知識があったほうがいいに越したことはない。それは適当にウィキペディアで拾って、地図を見ながら読むと、もっと楽しめる。イギリス人男男性とベトナム人女性はフランス語ができるので、フランス語のフレーズも割りと頻繁に出てくるが、その辺は疎外感を味わいながら読むのもよし、多少の知恵を働かせれば意味もわかるので頭をひねるもよし、グーグル翻訳に頼むのもよし、である。 タイトル:おとなしいアメリカ人 (The Quiet American) 作者:グレアム・グリーン (Graham Greene)

旅路

先に『流れる星は生きている』を読んで、その内容を忘れかけた頃にこっちを読んだ。藤原正彦の母、藤原ていの半生記だけど(どっちも)、北朝鮮から日本に帰国した後に彼女が選んだ女としての生き方も、こっちには書いてある。壮絶な体験をしたら後は楽、などということはなく、一生通していろいろ悩ましいことが次から次へと起きる。夫よりも稼いだ妻の立ち位置の難しさだとか、現代の女性にとっても悩ましいことが書かれているのが印象的だった。 青年期の藤原正彦の傍若無人ぶり(と言ったら失礼かな?)がちょこちょこ出てくるのも面白かった。 古本を買ったら、後ろにこんなハンコが押してあった。私もかつては自分の本に埴輪や猫のハンコを押していた。変なハンコが押してある本を見かけたら、それはきっと私の……  本の内容と関係ないけど、ブッククラブに行ってみた。「参加表明したら絶対来てね」的なプレッシャーを掛けられたし、白黒映画の仲間に「ブッククラブって、主催者の話をダラダラ聞かされるだけのとこもあるよ」と脅されたのであるが... お題の本は半分しか読んでない状態で行ったけど、とても面白かった。女性限定のグループ。主催者は慣れているのかきっちりしてて、本について話し合いやすいようにいろんな質問を用意してあった。 仕事をしていても女の人は小説を読む人が多い。そして、小説についてあれこれ話し合うのが好き。「えー、私はそんなふうに読まなかったけど」と言われてカチンと来るような面倒くさい人もいなさそうで、初参加の私でも参戦できた。全部読み切ってきている人がほとんどなのもよかった。 発言内容から察するに「あ、この人、ウィキペディアしか読んでないな」という人もいた。何事に関してもウィキ的な話ししかしない人はいるもの。こういう人をウィキ的参加者とこれから呼ぼう。でも、人数多めだったので人の話しているのを聞いているだけでも全然オッケーだったし、また来月も行ってみたい。

マチネの終わりに

読まず嫌いだった…… よかった。設定のせいで在外日本人にはどことなくしっくりくる(こない人もいるとは思うが)。こんなに何もかもが密接につながっている現代だけど、時差や同じ空間にはいないせいで「すれ違い」が出てくるところとか、主人公2人の「意識」が彷徨っている「場所」がどことなくグローバルなところが。アメリカ人の知識層の描写にも現実味があった。あっという間に読んでしまった。 すれ違いが切なく書かれているところがよかったな。プラトニックな関係なのに、頭の中でごちゃごちゃこねくり回している感じも現代っぽい。きれいすぎて、絵に描いた餅的な高尚な恋愛っていうのも、非日常感があって楽しめた。ストーリーに感化されてアンドレス・セゴビアの曲流しながら読んだ。 本とは関係ないけど、トランプ大統領の下半身騒動(もはや下半身どころか、政治を揺るがしているけど)の相手の1人、ポルノ女優のストーミー・ダニエルズが気に入った。60ミニッツのインタビューを何回も見てしまった。堂々としてて、どんな質問にもハキハキ答えて、内容がとても面白かった。私は笑いながら見た。今は辣腕弁護士がついているので政治的にがっちり固められているけど、そこんとこよりは、「#MeTooと一緒にしないで。まがりなりにも私はAV界の女優なんだから」と言っているところがとても面白かった。女の「性」を売ってるけど、自立してるし、自分のことは自分で守るし、言いたいことは言わせてもらう! という「おばちゃん」精神がスカっとしてよかった。聞き手のアンダーソン・クーパーも「(トランプ氏は)コンドームは着用してたんですか?」と突っ込むところがすばらしく、「未着用!」と堂々と答えているところには拍手した。だって、当時27歳だったから、ガキじゃないもの。 トランプの女性の好みは一貫していることにも感心。イヴァナも、メラニアも、ただでは起き上がらない強さを持ってると思うから、外見だけでなくって「跳ね馬」っぽい性格の人が好きなんだろうな…  でね、ニューズウィークのこの記事は残念ながら間違っている。「セックス中にトランプが『君は娘に似ているね』と言った」のではないよ。あのインタビューではそんなこと言ってない。そういうことになる前に、ホテルの部屋でおしゃべりしてるときにトランプが「あんた、うちの娘みたいに、ちゃんとはっきりものが言える子なんやね、気に入った」と言っただけ。ふたりの会話の翻訳も悪意のある翻訳のように聞こえる。まあ、今更、そんな細かいことはどうでもいいが。 https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/03/post-9819.php

おらおらでひとりいぐも

東北弁で書かれた話だから、感想を自分の方言で書いてみる。 ありがたいことに友達から借りて読んだんさ。 東北弁の部分もささっと読めたし、自分が生まれたときから馴染んどる方言で話すほうが、自分らしくなれる、っていうのはようわかる。今は英語圏に住んどるから、普段英語で話しとるけど、英語のほうがはっきりものが言えるのは、自分と切り離して言えるっていうのもあるし、日本語の難関である敬語をバイパスできるのもあるし、日本語を話すときの方言をしゃべらずに標準語をしゃべるという不思議さも回避できるからかもしれやん。 家族のために生きることが自分の存在価値になっとる年を取った女性がひとりでぶつぶつつぶやいとる話やけど、つい最近、『12 Angry Men』を劇場で見たんさ。あの12人の男たちも、善悪の判断をするときの、ひとりの人間の脳内の神経細胞に見立てられるな、とこの本を読んでから思った。

大奥15巻

ああ、面白かった。 とうの昔からだけど、もうただの男女逆転物語ではなくなっているから奥深いぞよ。性差の云々は表面的な問題に思えるし、「子どもを生む体かどうか」というそこ一点に集結するようにも思える。 幕末だから、西郷どんが登場してくるのもタイミングがいい。将軍という君主が非常に孤独であるってとこも、かの国を思わせる。 何より、国内外に大きな火種を抱えているのに忖度しまくりで、我慢に我慢を重ねて、最後にプチッと切れて All or Nothing になるのは日本的。ザ・国民性。 ただただ面白かった。

ツバキ文具店

なんか文房具の説明が多すぎて、ついでに鎌倉の説明も多すぎて、本筋がどうでもよくなり、途中であと10ページぐらいで読むのをやめてしまった。結末が見えていたから。 むしろ文房具の解説部分が面白かった。表紙が可愛い。 別に壮絶な話が読みたいわけじゃないけど、もうちょっとだけ狂気があってもよかったな。 そういえば、『Destiny 鎌倉ものがたり』って映画を見たけど、この映画にも同じものを感じたね。鎌倉に霊的なものがあるってことがどっちにも共通してるけど、あんまりピンと来なかった。

居酒屋の戦後史

とても勉強になった。お酒→東京の都市開発の歴史→お米の配給→酒税→経済的格差と、酒飲みの視点でよくここまで語れるな、というぐらいに内容が濃い。後で著者プロフィールを見たら、居酒屋研究は趣味で、経済格差を研究している学者だった。。。ま、確かに、何の酒を飲むか、どう飲むか、には階級が反映されている。トロントでも貧困区域に近いパブにいくと、「泡はいれないでね、泡は!」としつこく注文するおじさんはいる。ビール満タンにしてほしいから。私も、日本のビール専門店に行くと、「泡が多いな、もうちょっと減らしてほしい」と思ってしまう。ビールの泡は実はそんな好きじゃない。 「とりあえずビールね」と日本人はビールから始める理由を知ってしまった。一言ではまとめられない。この本一冊かけて説明されているといっても過言じゃないからね。 本に付いている帯のキャッチフレーズには「趣味が悪い!」と怒りがこみ上げることが多いけど、この本の帯には微笑んでしまった。