炎上&ベニスに死す

『炎上』

昔「やっぱ、名作は読んどかなきゃ」とティーンエージャーにありがちな知識欲に燃え、三島由紀夫や夏目漱石などをせっせと読んでいた。そうすると、友達のお母さんが若い頃に読んで感銘を受けた本だから、とまたいろんな本が回ってきた。そういう時代に『金閣寺』を読んだ。当時京都に住んでいたし、京都独特のおどろおどろしさに人間の闇を見るような気がしたものの、いかんせん、ぼんやり系であった私にはわからないところが多かった。

これは、今で言う「Incel」の話ではないかしらん。

若かりし日の市川雷蔵のドアップを見て、今の日本の俳優にはあまりこういう顔の人はいないよな…… と思いながら見ていた。老師の化粧水も映画ではずいぶん思わせぶりだった。フツーのサラリーマンが化粧水を叩くのが当たり前の時代だと、ああいう演出はスルーされかねない。

金閣寺への恋愛にも似た愛、炎への愛、病んでいたお父さんへの愛、老師からの愛を試すねじれた愛、お母さんに対する毛嫌い、小説を読んだときにはうすらぼんやりにしかわからなかったことが、今はもっとよくわかる。自分の成長が確かめられた気がした。

『ベニスに死す』

例の美少年もさることながら、上流階級の人々のドレスや帽子、高級ホテルの内装や小物、景色がすべて美しい。

やや乱暴に浜辺で戯れる少年たちのボーダーの水着姿が助平心をくすぐるけれど、それすらも美しい。

老いた人が心を奪われるほどの美しい若さを延々2時間。

偶然隣の席に、白黒映画の仲間が座っていた。常識に照らし合わせると彼女は「後期高齢者」に仕分けられる年齢だと思う。

「私はね、1971 年にこの映画が劇場初公開されたときに見に行ったのよ。死んだ亭主と!」

私は泣きはしなかったけど、髪染めの染料がドロドロと流れ出るシーンを見て、自分が生きてきた時間の重みに胸がキュッと締め付けられた!!

映画館から帰ってきて以来マーラーの交響曲をずっと流しているぞよ。

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