この間ブッククラブで読んだ本。
男女の三角関係のようでありながら、青くて理想に燃えるアメリカと老獪なヨーロッパと、その間で翻弄されるベトナムにかけてある。でも実は、ベトナム人女性はそんなに翻弄などされていない。愛など信じていないし、自分を正式に妻にしてくれて、経済力もあって、将来性もあるほうを狙っている。そして、アメリカ人とイギリス人の男たちも、なんだかんだといって、自分たちが生きている時代に思い切り翻弄されているのは同じなのである。
なんたって1950年代の話なんだけれど、男女の駆け引きが女のほうもうまい。大人の男と女の匂いがムンムン。
当然、ブッククラブでは、この女性キャラクターが話題になった。ストーリーの中ではうっすらとした存在感しかなく、なにゆえ2人の男が奪い合っているのかは判然としない。「色がない(個性がない)」「振り回されすぎ」という意見から始まり、結局は「自分が何が欲しいかを前面に押し出して言わないけど、欲しいものは手に入れている。存在感がないようで、実はある」というところで落ち着いた。女ばかりのブッククラブなので女性キャラクターにはみなうるさい。
ストーリーに漲る「矛盾」もひとしきり話題になった。タイトルそのものが「矛盾」している。アメリカ人はステレオタイプ的に「おとなしく」ない。この本の中に出てくるベトナムのキリスト教と仏教と土着の精神が融合したような教会(お寺?)のシーンも「一体何の宗教なんや!」と西洋人には不思議である。結局は「矛盾に満ちた世の中に生きる矛盾だらけの人たち」の精神バランスのとり方が絶妙だから、古典作品というわけなのかも。
このブッククラブには20人ぐらい人が来て、いつも古典を読んでいるようである。そのほうが図書館で本を借りられ、安く上げたい人には都合がいい。
比較的短いからさっと読める。アメリカがドツボにハマる前のベトナム戦争初期の知識があったほうがいいに越したことはない。それは適当にウィキペディアで拾って、地図を見ながら読むと、もっと楽しめる。イギリス人男男性とベトナム人女性はフランス語ができるので、フランス語のフレーズも割りと頻繁に出てくるが、その辺は疎外感を味わいながら読むのもよし、多少の知恵を働かせれば意味もわかるので頭をひねるもよし、グーグル翻訳に頼むのもよし、である。
タイトル:おとなしいアメリカ人 (The Quiet American)
作者:グレアム・グリーン (Graham Greene)

