シカゴのお宿はトランプホテルの目の前。
それはさておき、私もちょっと嫌な目に遭った。夜11時近くに一人で外を歩いていたら、ビジネスマン風の40代か50代のおっさんが、橋のたもとで「写真撮って」とスマホを差し出してきた。人通りはあったけど、夜だし、第六感で「この人おかしい」と感じたので、無視して通り過ぎた。私の後ろを歩いていたグループも無視。
橋を渡り切って信号待ちをしていたら、そのおっさんが走って追っかけてきて、私の目の前に立ちはだかり、「写真を撮ってくれてありがとう」と叫んだ。いやだな、面倒な人だな、と思ってササっとカニ歩きで避けたら、私の後ろのグループにも同じことを言った。
「写真を撮ってくれてありがとう」
「私たち、写真とってあげなかったんだけど」
「だから、ありがとうなんだよ」
「え?」
「グローバルな変化が押し寄せているから、心したまえ」
「え? なんのこと?」
「トランプが勝利したからな」
という展開で、皆無言。そのあと、おっさんにしばらく後をつけられているのか、たまたま同じ方向に歩いているのか、よくわからないけど、私だけが追いかけられる形になり、おっさんは時々「ピュー!」と口笛を吹いてくる。ホテルが近くにあったのでロビーに駆け込んだら、おっさんはそれ以上追いかけてはこなかった。
おっさんが人に自分の写真を撮ってもらえなかったのは、政治のせいじゃなくて、夜のせいなんだけどな。それに、スマホなんだからセルフィーしなよ。いや、大人なんだから、自分入りの記念写真撮れなかったぐらいで怒るな。
百歩譲って、アメリカの大都会、しかも夜に「写真撮って」と高価なスマホを見知らぬ人に手渡す無防備さを恥じたまえ。

