Hillbilly Elegy

アメリカ大統領選後に読み始めた。アメリカではベストセラーで、作者は選挙キャンペーン中テレビやラジオによく出ていた。TEDトークにも出ている。日本には渡辺由佳里さんがこの本を紹介しているから、知っている人も多いはず。

この本の背景については、渡辺さんの書いた記事を読んだ方がいいと思う。もう読んだ人も多いと思うけど。
http://www.newsweekjapan.jp/watanabe/2016/11/post-26.php

「ヒルビリー」とは、アメリカ内陸部に住む白人低所得者層で、アパレチア山脈に元々住んでいた。ケンタッキー州とかウェストバージニア州から、仕事を求めて、オハイオ、ミシガン、ペンシルバニアあたりに移り住み、そこでも工場閉鎖、企業撤退で置き去りされた形になっている。おそらくアメリカ建国以来一度も貧困から抜け出したことがなく、負のスパイラルに陥っている。この人たちが今回の選挙でトランプ勝利に導いたとも言われる。そして、そこから抜け出し、エリート社会に食い込み、弁護士になった人が書いたのが、この本。彼は、今は、サンフランシスコにあるベンチャーキャピタルにいる(ピーター・ティールの会社)。

米国内の「社会経済的な格差」を指摘していて、政治的立ち位置は逆でも、この作者とマイケル・ムーアは同じようなことを問題視している。マイケル・ムーアはちょっと、、、という人は、こちらを読むといいかもしれない。

政治に興味がない、アメリカの政治はわからない、という人でも、自分の親に大変な目にあわされた貧しい子のサクセスストーリーとして読める。最終章で、作者が本当は名乗りたかったラストネームに変える。貧困に生まれなくても、人に振り回された人生を、とうとう自力で奪回し、自分でコントロールできるようになった喜びを知っている人なら、涙すると思う。貧困にあえぐ子や虐待されている子に救いの手を差しのべるような仕事をしている人にも、参考になる本だと思う。

本来なら「労働者の味方であるはずの民主党支持」であったはずのヒルビリーがトランプに大きく傾いていった理由を、アメリカに住んでいない人がこの本に求めても、たぶん、納得のいく答えは見つからないかもしれない。作者は、共和党支持者で、そんな彼でも「まさかトランプが勝利するとは思わなかった」とテレビで言っていた。元々労働者だった彼らが労働にすら従事できなくなっている様子は(企業が撤退して町が疲弊しているとか、ドラッグへの依存とか、理由はいろいろ)、この本に仔細に書かれているから、まあ、とりあえず本書を読んでもらって、本当にこの人たちが政権交代により救われるのかどうかは考えるべきかもしれない。彼らの票を動かしただけで終わってしまっては浮かばれない。作者は別にヒルビリーを政府が救えるとは思っていない。

で、ちょっと話がずれるかもしれないけれど…

前に私が翻訳した『アシュリーの戦争』の読者複数から、「愛国心に溢れているのは別として、自己実現の手段として軍隊に入って、人を殺傷するための訓練を積もうと思う女の子の思考回路がわからない」という感想をもらった。『アシュリーの戦争』にははっきりは書かれておらず、ほのめかされている程度だけど、主人公含め、登場人物の何人かは、「ヒルビリー」と大差ないか、若干恵まれた環境にいた人たちだった。優秀でも、家が貧しかったり(あるいは家庭崩壊していたり)、田舎に住んでいてほかのチャンスに恵まれない女の子が多かった。でも「軍隊に入る」ことで道が広がる。ところが、そこでも「女だから」とチャンスが狭められてしまうことに反抗している、という伏線はあった。

ま、そういうこともあって、私は個人的に『Hillbilly Elegy』にはビビッときた。

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