父の威厳 数学者の意地

またまた藤原正彦。一番最後に収録されている「苦い勝利」が非常に面白かった。息子の修学旅行を犠牲にしてまでも学校による過剰な管理と戦う話。ま、私の中にも似た部分があるので(ルールに従わないとか)、苦渋難渋ぶりが手に取るようにわかるというか。

私の場合、OLをしていた頃、夜間英語学校に週二回通いたいがために、終業時刻10分前に私だけ帰らせてもらうことを許可してもらいたく、上司説得工作としてパンフレットなどを準備し、交換条件も用意して、これによりいかに自分の人生が豊かになるかを説いた。許可をもらったところまではいいけど、同僚からはほぼ総スカンを食った。そういう反応は想定内であったはずなのに、実際に体験してみるとかなり辛いことだった。その頃の私はまだまだ過渡期にいたから、その会社に骨をうずめる考えはなく、致し方ないことだった。その会社を辞めるとき「アンタみたいな子は将来痛い目に会うよ」という不吉な予言とか、「アンタはきっとどんなところでも生きていけるだろう」と褒め言葉なのか判断がつきかねる言葉を言われた。あれも一種の苦い勝利だったのかな。

国が変わってアメリカで会社勤めをしていた頃は、同僚たちが「今日はサッカーするんだ!」とか「今日はバレンタインデーだから」とか適当に仕事を早めに切り上げて帰るのが当たり前だった。残業は必要なときにする、という態度だった。でも一度だけ、誰もが就業中であるはずの昼間にミーティングをしようとしたら、「その時間、ヨガがあるから」と断られたことがある。アメリカを標準に考えると、かつてのあの苦い思いは何だったんだろう、と思ったりする。

閑話休題。

藤原正彦のエッセイはとても面白いけど、やっぱり武士道だとか愛国精神をしつこく持ち出すときはついていけない。気持ちはわからないでもないけど。本人だってそういう理想を掲げてはいるものの実はスットコドッコイなんだし。

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