ロンドンに来て最初に気付いたのは、カフェ、レストラン、パブ、洋服屋さんなどの店員が外国人である確率がとても高いということ。英語がよくできる人もいれば、そうでない人もいる。私の住んでいるノッティングヒルなど、そういうところで働いているのはほぼ間違いなく外人。
オックスフォードに行くバスに一緒に乗り合わせたオーストラリア人の女の子は「先祖ビザ」という、イギリス連邦に居住する人対象の、祖父母のどちらかがUK市民であれば何年かUKで就労できるというビザを利用して、老人介護の仕事をしているという。彼女の老人介護仲間はだいたいこの「先祖ビザ」でUKに来ていて、住み込みしたり、そうでないときはユースホステルに宿泊して介護しているという。時給7ポンドで、メイドと介護者の区別ができないシニアにパワハラまがいの扱いを受けることもしばしばで、そんな人の下の世話もしているのだ、という話だった。
最近UKのサンドイッチ工場にハンガリー人が大量に雇われるというニュースがあって、それだけではないけれど、ほかのEU諸国(特にポーランドなど)からのUKへの移民は問題になっていて、それがUKのEU離脱議論にもつながっている。それぐらい外国人労働者の問題は根深いらしい。
私はアメリカで永住権を取得するまでの間は外国人労働者の身だったけど、職業柄、居住国で生まれ育った人を脅かしたことはたぶんない。しかもホワイトカラーの労働者。それでも外国人労働者ネタは結構身近に感じることができるので気になる。そしてアメリカ在住歴も長いので、ついアメリカの事情と比較してしまう。
最初翻訳会社にいたときは営業や事務の人も含め社員はほぼ全員外国人だった。アメリカに根を下したいと考えている人たちで、多言語操れることがアメリカ移住への突破口だった。シリコンバレーの会社にいたときも、エンジニアはほとんど外国人で、彼らには技術が突破口だった。アメリカ人で多言語を操れる人も、電子工学を勉強する人も少ないから、こういう人たちはあんまり一般アメリカ人の脅威にはならないし、プライドも傷つけないと思う。合法的に移民してくるし、所得税をしっかり払う良市民になってくれるし、市民権取得するまでは参政権がないから、無口で善良な市民。
アメリカの場合、アメリカ人がやりたくない職業に就くのはメキシコや南米から来る人々。英語は不得手だし、教育水準も低い。密入国、不法滞在を犯してまでやってくる経済難民的な人たち。でもこの人たちがアメリカ人に不安は与えているのは、こういう人たちを密入国させたり雇い入れる裏環境があることじゃないかと思う。
なーんとなくだけど、私の印象に過ぎないけど、UKに他のEU諸国から流れてくる若い子たちは、教育水準も結構高くて、自国の景気が悪いからUKに流れてきていて、そんなに長居するつもりもないから、やりがいのある仕事は求めていなくて、とりあえず働けるだけで御の字という人が多いかもしれない。それは、大してスキルがないけど普通にまじめに幸せに暮らしたいと思っているUK市民にはちょっと迷惑なことなのかも。逆に考えてUKから他のEU諸国に出稼ぎにいくには英語以外の言葉が操れないといけないし、ほかに景気がいいところといえばドイツ… これって、英語しか出来ない人々にとって不利な状況になっているということじゃないかしら。英語以外の言語ができるか、英語しかできなくても何かスキルがあれば太刀打ちできる。
大学も優秀な生徒を世界中からリクルートしているし、国立や公立の大学でさえも、税金を払っている自国の人間を教育するより、海外からの留学生により高い学費を払ってもらうほうが経営面では得。この先、UKの英語しかできないミドルクラスの人は苦境に立たされるのじゃないかしらと思ったりする。
話はアメリカに戻って、彼の地には「アメリカン・ドリーム」という一攫千金でスーパーリッチを夢見る文化があるためか、どう贔屓目に見ても社会福祉の恩恵を受けるストライクゾーンど真ん中にいる人が、国民皆保険制度とかネットの中立性(これは誤解されていると思うけど)に対して、「いつか自分もリッチになるかもしれないから、福祉も規制も大反対」する傾向がとても強い。
ロンドンに来てから、よくこんなことをつらつらと考えてしまう。

