サンフランシスコ滞在中、ご令嬢経由で著者ご自身からメッセージ付きで頂き、トロントまでの機内で読みました。「TJWKのブランケット買ってくれたりお世話になっているんだから、本はもらうんじゃなくて買え」と教授に言われ、ポチっと購入する既の所で私の手元に届きました。
さて本題…
一流通訳者がどうやって仕事をしているかが書かれているから、それを目指す人に必読の書であるけれど、通訳者の任務遂行過程を知ることにより、通訳される側であるパブリック・スピーキングをする人、スピーチやプレゼンをする人も是非読むべき内容が書かれています。だって通訳ほど人の話を真剣に聞いている人いないからね。コミュニケーションの成功と失敗の現場に常に居合わせている人たちだからこそ傾聴に値します。
そんなことに興味がないという人でもキラ星のごとく登場する人物や歴史的事件を通訳の目を通して知ることができる楽しさがあります。ここに書かれているコミュニケーションというのは世界の大舞台でのことが例として引き合いに出されていて、有名な政治家たちがどのようなコミュニケーションをとってきたのかを語られている部分があります。私は職業柄、通訳・翻訳業のトップに立つ人たちの著作を読むことが多いのですが、中曽根元首相のメッセージ伝達力は秀でているという通訳者は多いです。東京オリンピック招致活動にも長く深く関わってきた著者ならではの、オリンピックネタも盛りだくさん。
この著書は小難しく書かれているわけではなく、軽妙で読みやすく、頭に入ってきやすい。まさにタイトルどおり、伝わってきました。
近々NHKの「プロフェッショナル」でこの長井鞠子さんが紹介されるので、そちらも是非見てね。
http://www.nhk.or.jp/professional/schedule/
適性が全く違うという点から、通訳と翻訳は似て非なるもの、とよく言われますが、意味を伝える、正解がない、コミュニケーションの生き証人という点では同じではないかと思います。私は、互いの国に進出する日系企業か米国企業を翻訳でサポートするのですが、その始まりであるプレゼンとその付随資料の翻訳は、やはりビジネスの成功を願う気持ちから「字面どおり」の翻訳はしません。プレゼンなら音読もしやすそうな、視覚的にもパッと理解しやすそうな言葉や文章の短さ、句読点のつけ方を時間の許す限り考えます。そして、こんなに真剣に資料を読み込んでいるのは実は私だけという現実もあり、「このスライドではこんなこと言っているのに、あっちではあんなこと言っている…」などと細かい部分での論理の整合性チェックは「私に任せて」と内心思っている…
話はさらにずれるけど、コミュニケーションって諦めたらお終いよね。諦めもいろんな形があるけど、弱肉強食の世界で強い位置にいるとか、コミュニケーションを誰かに依存できる状況にいる(夫婦関係で片方が依存している状態とか)場合なんてのは、意思の疎通をはかりづらいから、どちらの側も諦めやすいよね。
余談ですが、翻訳は通訳と違って薄給です。

