島根県立美術館へ伝統工芸展を見に行った。宍道湖の湖畔にあるこの美術館は夕陽スポットで有名らしい。しかしこの企画展を見終えたのは日没後。夕陽が美しかったかどうかは分からずじまい。
夕飯はトロントの友人に勧められ松江の「かねやす」という割烹で。新鮮な魚がとてもおいしい。FBでつぶやいたけどここの女将は90歳。一人でカウンターに座って御造りと日本酒を楽しむ私に「いくつ?26歳ぐらい?」「ダンナさんはいないの?」などと突っ込んだことを尋ねてくる。実年齢を答えると目を丸くして「若いね」と驚かれるので「そんなことはありませんよ。そちらはおいくつですか?60歳ぐらい?」とフッてみたら、「90よ!90!」と。これが女同士の社交辞令、会話のキャッチボールといおうか。来た球は返さなくちゃね。実は90歳ぐらいに見えたけど、動きがキビキビしていているのは体の可動域が広いからかも。
ここの店は家族で切り盛りしているらしく、その90歳の彼女の息子と思わしき人もカウンターにいる。年末とありこの一年を総括するテレビ番組で「東京五輪音頭」なるものが流れる。そんな曲は知らない私。息子さん(といってもこちらもおじいさん)が「東京五輪音頭、聞いたことないの?オレはこれを聞いて育ったよ」という。そして、店の割り箸の入っている袋をひっくり返して「この歌詞を書いた人は、ウチの歌も書いてくれたんだ」というではないか。
この作詞者の宮田隆さんという人は、「かねやす」の常連客の一人で、島根県庁にお勤めだったらしい。どういうわけで「東京五輪音頭」の作詞に至ったのかは知らないけれど、文才溢れる飲兵衛であったらしく、ややけなされ気味に評されるのは、少なくともこの店の人には愛されていた証であろう。この「かねやすの歌」には宮田さんの店への愛が滲み出ているから、相思相愛。
東京での2020年オリンピックが決定した2013年の年末に、前回の東京オリンピックにゆかりのある場所に居合わせたことや、小さな発見がとても嬉しい。90歳のおばあちゃんとはある程度同じことの繰り返しではあったけどいろいろ話をして、「トロントの友達にコレ持っていってよ!ありがたいことだね!」とチョコレートを渡された。計算された「おもてなし」が多い中、掛け値なしのおもてなしに触れると心が温まる。時間がなくて松江はここしか行ってないけど、やっぱりこういう出会いが一番の旅の思い出ね。
これで島根の旅の思い出話はお終い。
東京五輪音頭の歌詞
東京五輪音頭(三波春夫版)

