Lullabies for Little Criminals

これは2007年のCanada Readsでトップに選ばれたし、同年のGovernor General賞 (総督文学賞) にもノミネートされた本なので、たぶん当時は書店に平積みされていたと思う。総督文学賞は英語と仏語で書かれた両方の作品が選出されるし、この『Lullabies for Little Criminals』にもモントリオールが舞台とあって仏語の歌詞や文章の抜粋がかなり出てくるから、カナダの文化とは何かをものすごく意識して選出されていると思う。Canada Readsのほうは CBCラジオ (カナダ放送協会) 主宰のイベントで、著名人5人がそれぞれ本を一冊イチオシし、その本がどんなに素晴らしいかをディベートして最優秀作品を選び出すというもの。これも英語版と仏語版がある。カナダを知りたければまずはこれに選ばれている作品を手にしてみたらいいと思う。

で、『Lullabies for Little Criminals』について。モントリオールの貧民街で暮らすジャンキーな父と娘の話なのですが、二人の間は親子の深い無償の愛で結ばれているにもかかわらず、お父さんがいかんせん貧乏だしジャンキーなので「責任能力」ということとなると、警報が赤く点滅してビービー鳴りっ放し。主人公の娘は母親を赤ん坊の頃に失っているので、「お母さんってどんなだろ?」と密かに思い焦がれている。そして少女の愛らしさが美しさへと変わり始め、性的にも体が変化し始めると、不幸が不幸を呼び始め、不幸のオンパレードとなるのですが… 最終章はハンカチやティッシュがないと読めませんよ!お父さん、いつも胡散臭い話ばっかりしてるけど、最後、父娘が化石を見ながら表面上はテキトーなこと言っているシーンはギャン泣きします。要注意。そーねー、『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』ぐらいに私は泣いたな。話は全然違うんだけど。

子供から大人へと成長していく過程で、子供同士の友情や、頼れる大人や、ありのままの自分を愛してくれる懐の大きな愛情がなお必要である一方で、大人のように振舞ったり、大人のように振舞うことを求められたりする。そういうことを繰り返して誰もが成長するのだろうけど、早まって世間に揉まれる子供には不可避の不幸が押し寄せる。「カアチャンのためならエンヤコラ、トウチャンのためならエンヤコラ」しながら、見たこともない母親や責任遂行能力ゼロの父親の愛に飢えているところがなんともいえない気持ちにさせられる。

作者も同じように貧しい環境で育ったらしく、貧民街で暮らす子供たちの様子や風景を書くことができて、それを人に読んでもらえて幸せだというコメントを残しています。作者はHeather O’Neillといって、アメリカのPBSのThis American Lifeのライターの一人でもある。This American LifeのライターといえばDavid Sedarisなんかが有名ですが。あのショーが好きな人ならこの本はかなり気に入ると思うな。

ドラッグ&売春に関する英語のスラング、その用法もこの本から色々と学べます。そして語り部が子供なので英語は比較的簡単。

2 thoughts on “Lullabies for Little Criminals”

  1. 良書の紹介ありがとうございます。
    こういうかんじの英語の本の紹介がいちばん助かります。

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