『櫻守』は、笹部新太郎という実在の人物をモデルに、その人の山守だった園芸師が主人公です。昭和44 (1969) 年発行。戦中戦後の日本の山の変わり様が桜をとおして感じられる、よい話でした。現在でも関西一円で桜の名所として知られるところは笹部新太郎の功績によるものが多いようです。「桜=ソメイヨシノ」と思い勝ちですが、それは比較的簡単に育つし花も美しいというこの品種が戦後もてはやされた結果ということを知りました。ほかにもいろんな日本固有種があったのね。
読んでいてはっと気づいたのが、大正生まれの男の人は戦場にかりだされたため生き残っている同世代が少ないということ。切ないですね。そういう世代の園芸師が日本固有種や老木の桜を守ることを生きがいにしていた、というのが、縦糸、横糸となり、美しい話を織り成しているように思います。この話は桜について多くを語るけれど言外に匂わせていることも多いようで、読者の心次第で何とでも深読みする楽しみも。お話全体がほのかで短命な桜の花とでもいいましょうか(きゃは!)
この話に出てくる、ダム建設でダムの底に沈むはずだった桜の老木を移植したのは本当にあった話なのですね。いやー立派な桜!
白子の子安観音の不断桜も出てきました。近くに住んでいたのに一度も実物見たことないけど。この不断桜の虫食いの葉の様子が美しく、そこから伊勢型紙が生まれたとか。ま、言ったもんがちみたいな言い伝えですね。

